乳歯臼歯を抜歯した2症例

今回は1歳サラブレッド育成馬の臼歯を抜歯した症例を2つ紹介します。

 

1症例目は齲歯(いわゆる虫歯)によってもろくなった臼歯を抜歯した症例です。

皆さんは馬の虫歯についてどのようなイメージを持っていますか?

・草食動物だから虫歯にはならなそう

・リンゴや黒糖などの甘いものをあげたらなるのかな

これは私が馬の歯の勉強をする前に思っていたことですが、同じようなイメージを持っている方も少なくないと思います。

 

 実は馬にとって虫歯はとても身近な病気で、「12歳以上の馬は全頭虫歯になっていた」という調査報告もあります。

 齲歯は石灰化した歯の組織が細菌によって破壊される病気で、進行すると歯に穴が開いたり歯がもろくなったりします。齲歯の進行が歯の神経に達すると持続的な疼痛を感じるようになったり、齲歯によってもろくなった歯は健康な歯よりも折れやすくなったりします。

 

今回の症例馬は1歳のサラブレッド育成馬で、定期的なデンタルケアの際に左上顎の607(乳歯)の齲歯を発見しました。齲歯の進行度は重度でレントゲン画像では、歯根部に食べ物が詰まったような黒く抜けている部分を確認しました。

 

 食渣が歯根部の歯肉の間に詰まったまま放置すると、歯根部が感染を起こしたり詰まった食渣が周囲の血管を圧迫して良好な血流を阻害したりする可能性があります。また、齲歯を放置していると、上記のように持続的な疼痛が生じたり、もろくなった歯が折れて口腔内を傷つけたりすることもあるため、抜歯を実施することにしました。

 

抜歯の手順は

1.       鎮静剤を用いて馬を安静化

2.       神経ブロック麻酔で、抜歯時の疼痛ケア

3.       歯肉を剥離して臼歯の歯根部を露出

4.       歯間にスプレッダーを挟み、歯槽靭帯を緩める(永久歯の場合)

5.       エクストラクターで掴み、前後左右に揺らしてぐらつかせる

6.       抜歯

 

という流れになります。

 

今回の症例で抜歯した歯は607で、馬の臼歯の中で手前側だったため、アプローチしやすく、また、乳歯だったため永久歯と比べて歯肉に埋まっている歯根が短く、抜歯はそれほど難しくはなかったです。しかし、重度な齲歯を抜歯しているため、処置中に歯が折れて歯の破片が歯肉に残ってしまわないように注意する必要がありました。抜歯の過程で、何回か細かい破片がこぼれ落ちることもあり、歯を掴む力や左右にぐらつかせる力の加減を慎重に調整して実施しました。

 

抜歯後にはレントゲン検査で歯肉に残った破片がないか確認をしました。今回は歯肉に残ることなく抜歯することができたので1時間程度で処置が終了しましたが、抜歯時に歯が折れて歯肉に残ってしまうと、歯肉に埋まっている歯を摘出する必要があり、さらに処置に時間がかかってしまいます。

 

 

抜歯後の経過は、特に大きな問題はなく順調に進みました。


2症例目は破折によって舌側、頬側に離開した臼歯を抜歯した症例です。

この症例馬も1歳サラブレッド育成馬で、「銜(はみ)を着けた状態で左を向かせると激しく嫌がる」という稟告を受け、口腔内検査を実施しました。

 

開口器をつけて口腔内を観察すると、左上顎の606がきれいに縦に割れており、それぞれが口蓋側(内側)、頬側(外側)に離開していました。折れた歯を触ってみると、すでに軽くぐらついている状態でした。

 

このまま放置していると銜受けの症状改善は見込めず、口腔内を傷つけたり折れている歯がさらに細かく折れたりする可能性があるため、抜歯することにしました。

 

抜歯の前にレントゲン検査を実施し、歯根部で歯が折れていないか、歯根部の長さはどれくらいかを確認しました。

抜歯の手順は1症例目と同様に実施しました。

 

この症例は乳歯であること、既にぐらついていたことから比較的容易に抜歯することができました。抜歯後のレントゲン検査で破片が残っていないことを確認して抜歯の処置を終了しました。

 

その後の経過は順調で、左を向きたがらない症状も無くなりました。


今回は、臼歯(乳歯)の抜歯を実施した症例を2つ紹介させていただきました。この2症例を経て、若い馬でも抜歯が必要な歯の病気にかかることがあることを改めて実感しました。

 

 

馬は基本的に起きている時間の大半を食事に費やします。そのため、食事に必要な歯は馬にとってとても重要な器官です。私たち人間でも虫歯が痛かったり、親知らずを放置して頬を頻繁に噛んで痛かったりするとストレスを感じますが、馬が歯に痛みや不快感を抱くと、私たち人間よりも膨大なストレスを抱えることになるだろうと思います。定期的な歯の検査、治療が馬の生活の質を向上させる一つの要因になると思いますので、現役競走馬のみならず、繁殖牝馬や種牡馬、功労馬など様々なステージやジャンルの馬に歯の検査を実施してあげてみてください。

 

ELM HC 田原 和貴

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コメント: 2
  • #1

    Henry Smith (木曜日, 21 5月 2026 21:59)

    This is fantastic! 大変勉強になりました!I think you write it in English too, so that people around the world (maybe many vet students) can learn from these two cases.

  • #2

    MITSUMORI SHIKICHI (金曜日, 22 5月 2026 14:12)

    Thank you for your comment.
    We’ll continue to update the blog with a focus on dental topics,
    so we’d be delighted if you’d drop by again.