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前肢の中節骨遠位における剥離骨折

昨年珍しい症例に遭遇したので紹介します。

11月初旬に左前肢の跛行を呈するという主訴で初診。10月初旬から馴致をはじめ、ロンジングをした際に暴れてその後跛行し、約3週間舎飼いにした。歩様が良化したので、1週間曳き馬ほどのペースでウオーキングマシンに入れたところ再度跛行するようになったとのこと。

歩様は左前肢の支跛を呈しており、直線運動ではグレード4(AAEP)に相当する。旋回運動では両回りで左前肢の跛行を認め、とくに右回りではしばしば負重できないほど痛みがあった。触診では繋ぎと蹄冠に熱感を認めたが、蹄鉗子では蹄に圧痛を認めなかった。歩様や触診などから、下肢部に痛みの原因があると予想し、蹄、球節および繋ぎのレントゲン検査を実施。蹄骨や球節では異常を認めなかったが、中節骨の背側に骨増生が見られたため、別の角度から撮影したところ、中節骨遠位背外側に剥離骨折を認めた。

 

 

跛行がこの骨折によるものか調べるために診断麻酔を行った。骨折が背側にあり、掌側肢神経麻酔(Pastern digital block)では背側の感覚が消失しないため、繋ぎの環状麻酔(Pastern Ring block)を行った。結果、跛行はほぼ改善され繋ぎより遠位に跛行の原因があることが分かった。


数日後、遠位指節間関節(Distal interphalangeal joint)の関節ブロックを行った。跛行は若干の改善にとどまったため、骨折の痛みを完全に消すことができなかったか、靱帯など周囲組織に損傷がある可能性があると判断し、靱帯や筋肉の損傷をみるためエコー検査を実施した。蹄冠より近位の部位には異常は認められず、蹄冠より遠位はエコーで描出することができなかった。


二次診療施設と相談したところ、この部位の関節鏡手術による骨片摘出術は変形性関節症を惹起するリスクが高いとのことであった。また、手術した場合や周辺の組織に損傷がある場合の予後が未知であるため、ステロイドの関節内注射とキャスト固定を実施し骨折の修復を待つことにした。

約1か月間キャストを装着した後のレントゲン検査では大きな変化は見られなかった。跛行は旋回運動ではあまり変化がなく、直線運動でやや良化した。

残念ながら、馬は別の牧場に移動してしまい、経過を追うことができなくなってしまった。

 

複数の成書にはDIP jointにある骨片を背側から関節鏡で摘出し、現役復帰した症例があると記載されている。一方で変形性関節症を起こすリスクが高く、DIP joint内の骨片のうち末節骨の伸筋突起以外の部位は特に技術を要し、関節鏡では取り出すことができないケースもある。

今回のような骨折は症例数が少なく、キャスト固定のみで処置した症例はごくわずかであるため、今後移動先と連携して経過を辿っていきたい。

 

 

投稿者:竹内詩織

参考文献

『Adams and Stashak's Lameness in Horses, 7th Edition』 

Gary M. Baxter 

p.472, 524~525

 

『Clinical Radiology of the Horse, 4th Edition』

Janet A. Butler, Christopher M. Colles, Sue J. Dyson, Svend E. Kold, Paul W. Poulos

p.171~172

 

『Diagnostic and Surgical Arthroscopy in the Horse, 3rd Edition』

C. Wayne McIlwraith Ian Wright Alan Nixon K. Josef Boening

p.352~357

 

『Conservative management of a transverse fracture of the distal phalanx in a Quarter Horse』

Ceri E. Sherlock, MS, BVetMed DACVS; Randall B. Eggleston, DVM, DACVS; Elizabeth W. Howerth, DVM, PhD, DACVP

J. Am. Vet. 2012 Jan; 240(1):82-86

 

『Management of comminuted fractures of the proximal phalanx in horses: 64 cases (1983–2001)』

Beth M. Kraus, DVM Dean W. Richardson, DVM, DACVS David M. Nunamaker, VMD, DACVS Michael W. Ross, DVM, DACVS

J. Am. Vet. 2004 Jan; 224(2):254-263

 

『Outcome of arthroscopic debridement of cartilage injury in the equine distal interphalangeal joint』

Weston R. Warnock, corresponding author Chad A. Marsh, and Donald R. Hand

Can Vet J. 2019 Jul; 60(7): 731–736.